即興演奏と踊りのコラボというと、やるのも観るのも難解?と、感じている方も多いと思います。
ここで紹介するシステムは簡単なルールさえ覚えていただければ、ビギナーの方でも気軽に即興コラボを楽しめます。
このシステムは元々、クラシック音楽の世界で確立されていたようですが、私がこれを知ったのは'86年、NYのコンテンポラリー・ミュージシャン、サックス奏者のジョン・ゾーンの企画に参加したのが切っ掛けでした。
より自由な表現の追求から、フリー・ジャズの循環コード、音階理論という枠組みを外した、ノン・コードの即興音楽の領域にはノイズ・ミュージック(あらゆる器物を楽器と見立てる)というジャンルも産み出しました。しかし、このスリリングなジャンルは、一言で云うならば、「音楽として収拾が付かない」というリスクを抱えます。思い付き的、垂れ流し的なライブも頻出し、演奏家と観客の距離は無際限に広がります。'80年代、そうした状況を、もう一度、音楽として収束する方法を模索する動きが起こります。これが、ポスト・フリーというムーブメントです。
ジョンの企画では二人のドラマー、二人のキーボード奏者、二人のギタリスト計六名の演奏家によって行われました。私はギタリストとして参加しました。近藤等則バンドのメンバー、現代音楽家の三宅榛名氏等、演奏家の出身ジャンルはマチマチでした。
この企画は演奏者サイドにも観客にも新鮮に受け入れられ、時代の変換点を肌で感じさせるものでした。
ジョンの企画は、参加するアーティストは音楽家に限られていたものでしたが、私は踊り手も参加できるシステムを模索しました。'87年には私の主宰する舞踏カンパニーと、今度は「即興音楽と舞踏1〜3」で紹介しました、私が独自に開発したコラボ・システムでジョンに参加して頂きました。ジョンが舞踏と共演したのは初めてだったそうですが、今までに私達のカンパニーでは百人以上の音楽家達と三百回以上の共演をしてきました。
私のコラボ・システムは参加者の個性的でパワフルな表現を如何に引き出すかに着目し作品性を重視したものです。そのために共演者はプロに限られていましたが、ジョンのシステムから私が発想しました異種ジャンルの「みんなで楽しめるコラボ・システム」はより開かれたアート・コミュニケーションを目指したものです。参加型のアートが求められる現代、経験如何を問わず参加するメンバーそれぞれの「たおやかな個性」が感化し合うことで産まれる多彩な発想は、このシステムをより自由に展開させていくことでしょう。
以下は'06年、台北で開催された舞踏ワークショップでの、「即興演奏と舞踏」のコラボ・システムの一例です。
四人の中国・台湾伝統音楽の音楽家。彼等はそれまでジャズやロック、現代音楽には親しみがありません。即興音楽など、そんなジャンルがあることも知りませんでした。ところが、いざ、やってみると楽しくてたまらない。私の提示したコラボ・ルールでは、演奏者が誰でもその場で踊り手がいる舞台の演出家となります。演奏者として舞台のシーンにイニシアティブを持って関わらなくてはならないのならば、その時、演奏者は既に舞台の演出家に成ってしまっている、そんなコラボ・システムです。
ライブは複数の演奏者、単独もしくは複数の踊り手、一人の進行役によって始まります。 演奏者に与えられたルールは二つ。演奏者と演奏内容の指示です。演奏者は音楽で、既に踊り手がいる舞台の演出上の展開を図ります。ところが、即興で踊る踊り手達は、変換する演奏内容に思い思いの対応をするので、なかなか演出を担う演奏者の思惑通りにはいきません。すると、別の演奏者が次のシーンの演奏指示を出そうとする訳ですが・・・。
ルール |
○演奏者は、次に誰が演奏するかを決める。 |
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進行役から指名された一人の演奏者が、次に演奏する人を進行役に指サインで伝える。今回の場合、演奏者は四人ですので(ソロ×4、デュオ×7、トリオ×3、
全員×1)の十五種類のパターンの中からセレクトします。 |
○演奏者は次に演奏する人の演奏内容を決める。 |
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進行役に指名された演奏者は、次に演奏する人の演奏内容を、これも進行役に指サインで伝えます。
今回の場合は、七種類の演奏パターンを用意してみました。 |
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1.早く
2.ゆっくり
3.激しく
4.優しく
5.メロディアス
6.ランダム
7.無音、もしくは終わりの合図 |
○進行役は、次のシーンの演奏者を指示する演奏者を選び、その人からの指示を、演奏者全員に与えます。進行役と演奏者のコミュニケーションは全て指サインでなされます。
進行役は指示を出す演奏者を選び、その人からの指示を演奏者全員に伝えますが、自身が演奏内容に関与することは禁忌となります。 |
ビデオは、ワークショップで進行役を担った私のルール説明とサンプル、実際のライブの一部を編集したものです。 |
この日は二回のセッションを行いました。二回目のセッションでは、前回の演奏者は踊り手になり、踊り手の中の有志が演奏者になります。進行役も替わります。皆さん楽しんでくれていたようです。
一人の人が演奏も踊りも体験することで、共演者の心や場の捉え方が多彩になり、表現の幅が倍増していきます。
私としては台湾の伝統楽器奏者と舞踏のコラボという初めての体験が楽しかったのですが、出演者同士に協調する心があれば楽器は何でもいいと思います。楽器を弾けない人でも想いを音にすることは誰にでもできます。声を発する、歌を唄う、台詞を喋る、小皿を叩く。心があれば全ては音楽になります。
今回、私達のワークショップに参加された方々は、舞踏を二週間ほど体験されていますが、からだ表現は舞踏に限るものではありません。このシステムはビギナーも含めジャンルを問わない音楽、洋の東西を問わない舞踊、マイム、演劇等あらゆるからだ表現の方々の参加により、様々なバリエーションが期待できますし、皆さんの創意によるルール変更で自在な展開をしていくことでしょう。
友達が集まったら、是非やってみて下さい。人は誰でもからだ表現者、楽器をやったことのない人でもみんな音楽家。アートを通したヒューマン・コミュニケーションはそれぞれの個性を再発見し合う契機を創ります。初対面の人達とでも直ぐに親しくなってしまう。それがアート本来の理念です。 |