京劇の200年に対して800年という台湾=中国でも最も古い歴史を持つ伝統芸能の一つ「南管オペラ(演劇、踊り、唄、音楽から構成される舞台は高度な技術を要する)」を現代に継承する、
台湾の「江之翠劇場Gang-a Tsui Theater」の皆さんとの舞踏講習会は、私達にとって大変感慨深いものであった。
アジアの文化交流を支援するAsian Culturel Councilの助成を受けて行われた本講習会は、伝統芸能を受け継ぎながらも、同時に
「南管オペラ」の現代性をも追求しようとする主宰者の周逸昌氏によりこの夏、台北で三週間開催された。
日本でも近年、能、狂言、歌舞伎等が持ち前の場を離れ、果敢に他ジャンルのフィールドで活動する姿を目にする。中国では文化大革命、台湾では一党独裁政権により自国の伝統芸能が国家から規制されるという歴史を持つが、周氏の主宰する「江之翠劇場」
は古典芸能の復興に留まらず、時代性を視野に入れた野心的な企画にも取り組んでいる。その活動は多くの識者によって支援され、
近年は海外公演も多い。
元々、「江之翠劇場」の団員の皆さんは、舞台人としての経験、実績は存分に備えている。その上で、大変謙虚な姿勢で稽古に望まれるので、舞踏を吸収し具現する速度には目を見張るものがあっ
た。
彼らの舞踏の質感は彼らの素直な心を表象するように大らかであり、体に染み込んだ風土、現代にも息づく思想(四書五経、仏教)
を漂わせるのか味わいのある深みも感じられる。
舞踏は彼らの体を通して、日本人の情緒感とはまた違う、新たな美を開花させる予感がした。それも、彼らのアートへのひたむきな情熱の成せる技(わざ)なのかもしれない。
近い将来、「南管オペラ」という緻密で優美な芸能が台湾=中国発 のグローバル・アートとして広く紹介されるだろう。
同じアジアの同胞として彼らの行く末を見守っていきたい。
アジア人の体、その度量には環境も含め全てを受け入れる「たおやかな情緒」が滲んでいる。21世紀の舞台アートの一つの重要なファクターを示唆することは間違いない。
また、「Gang-a Tsui Theater」の大変真摯でけっして崩れることのない気概を持たれる支援者、ブレーンの方々の豊かな心に支えられるところもあるのだろう。
例えば、儒教から美の概念を、仏教から作品解釈を語られる方もおられた。近年の西洋文化論に自国のアートを当て嵌めるを善しとする風潮の日本では、まず有り得ないことだ。
私自身、教える立場で台湾に赴いた訳だが、彼らから教わることの方が余りにも多すぎた。いったい日本人とは何者なのだろうか?
経済と情報のネット構築においては一流の日本人である。さて、文化=心においてはいかなものか?私は彼らから大きな課題を突き付けられたことになる。
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▲「江之翠劇場」の皆さん
蝉時雨が鳴り響く陽明山山房にて。
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▲台湾で初めて本格的な舞踏を踊る。それは大らかで味わい深い踊りであった。
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▲南管オペラで使う太鼓の即興演奏と。
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▲「江之翠劇場」の皆さんと「友惠しづねと白桃房(芦川羊子、うずみ)」、前列左から衣装の鄭惠中氏、「江之翠劇場」主宰の周逸昌氏、友惠しづね。 |
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